日本映画史の闇に咲くカルト映画『怪猫トルコ風呂』
『怪猫トルコ風呂』©東映

 『リング』『呪怨』などの“Jホラー”ブームですっかり日本映画の顔となったホラー映画ですが、もともと日本は江戸時代の歌舞伎や古典落語で怪談を語り継いできたホラー大国。明治時代末期、映画が日本に伝わってからすぐに“怪談映画”が作られ始め、「日本映画の歴史は怪談映画の歴史」と言っても過言ではないほどです。
 そんな日本のホラー映画の歴史のなかでもひときわ異彩を放つ映画『怪猫トルコ風呂』をご紹介します。1975年の初公開以来、長らく視聴が困難だったために映画マニアたちの間で伝説化し、作品の存在自体が妖怪のようになってしまった 《カルト映画》です。

そもそも「怪猫」とは…?

「怪猫(かいびょう)」とは化け猫の妖怪のことで、日本各地に言い伝えが遺されています。もっとも有名なものは佐賀県に伝わる「鍋島の化け猫騒動」で、自害した女の飼い猫が妖怪化して人間を襲うというもの。この話をもとにして、1910年(明治43年)に『嵯峨の夜櫻』なる映画が作られたという記録が残っています。ただし、明治・大正・昭和初期の映画はきちんと保存されなかったり、戦争で焼失してしまった場合が多く、この作品も映像は残っていません。終戦後も「怪猫映画」の人気は高く、死んだ女の怨念を受け継いだ猫が怪物化する映画が数多く作られ人気を博しました。

それから「トルコ風呂」とは…?

「トルコ風呂」とは、現在「ソープランド」と呼ばれる性風俗店のことです。中東の文化を誤解したまま日本全国に広がってしまい、日本にやってきたトルコ人がショックを受けるという事態が発生。現在は東京都知事で当時ニュースキャスターだった小池百合子の支援もあり、1980年代の中ごろからその名は撤廃されていきました。「トラック野郎」シリーズなど、1960~70年代に作られた日本映画を観ていると、たびたびトルコ風呂が登場します。

それがどうして『怪猫トルコ風呂』に…?

 昭和の時代は夏になると毎年のように怪談映画が作られていましたが、1970年代を迎えるころには徐々に古臭いものとみなされるようになっていました。そんななか、当時の東映社長・岡田茂のアイデアにより成人向けの映画としてこの映画の企画が浮上。江戸時代には「遊廓に勤めている遊女が化け猫に姿を変える」という言い伝えをもとに小説や絵など多くの作品が生まれており、この作品も美しい女性たちが集まる妖しげな雰囲気と妖怪が現れる恐ろしい場面が不思議な融合を果たしています。物語はもちろん、「死んだ女性の飼い猫が不思議な力を得て復讐を果たす」というもの。「猫と人間の心温まるイイ話」の映画が流行している現在ではとても考えられない発想ですね。

埋もれていた30年間

 ビデオやDVDにならず、TV放送もされない映画は、上映の機会がない限り忘れられてしまいます。この『怪猫トルコ風呂』も例外ではなく、公開当時に観ることのできた一部の人の記憶に残されたまま30年が経っていました。2006年になってから東京の名画座で上映された際にはこの幻の映画を観ようと多くの人々が駆けつけ、映画マニアの間で話題になりました。現在もDVD化はされていませんが、近年はついにCSでも放送され、ようやく気軽に観ることができるようになりました。

 主演は『花と蛇』『生贄夫人』など、情け深い女性を数多く演じた伝説の女優・谷ナオミ。昭和の映画に見られる独特の雰囲気、おどろおどろしさをお楽しみください。公開当時は18歳未満は観てはいけない「成人指定/18禁」でしたが、映倫の再審査によって「R15+」まで下がりました。15歳以上の映画好きはぜひ一度ご覧ください。

東映チャンネル

怪猫トルコ風呂[R15+]
9月4日(金)25:30-27:00 [再]=19

あなたにオススメ