高杉真宙
機能不全の家族を描いた人間ドラマで
まっすぐに家族と向き合う青年を好演

寺地はるなの同名小説を『愛に乱暴』の森ガキ侑大が映画化した『架空の犬と嘘をつく猫』。弟の死によって現実を見なくなった母親をはじめ、不都合な真実から目をそらしつつ、それでもなお一緒に暮らしている機能不全の羽猫家。その中で少年・山吹はただひとり、真正面から家族と向き合い成長していく。本作で青年に成長した山吹を演じた高杉真宙に、本作への思いや家族とは何かについて語ってもらった。
「山吹というキャラクターを、自分は愛せるなと確信が持てた」
僕にとって、大好きな作品になりました。山吹だけの視線で進んでいく話じゃなく、山吹からは見えない家族の心情がたくさん描かれています。それを受け止めていく作品で、その中で山吹というキャラクターを自分は愛せるなと確信を持って作品に入っていけました。
実は共感というのはなかなか難しかったんですけれど、理解はできるというか。自分自身に繋がるわけではないですけど、彼が彼なりに選択しながら人生を歩んでいくことに寄り添うことができました。
森ガキ監督とは、家族それぞれの思いや感じ方の違い、お互いの距離感は意識したいという話をしました。自分にとって家族は…無償で助けたい存在ですね。僕が助けられることももちろん絶対にありますが、それを望んでいるわけではないです。助けたい気持ちは自己満足ですけど、相手に対してそう思えることが家族なのかなと思ってます。
羽猫家は山吹を含めて嘘をついている人が多い家族ですけど、僕は捉え方しだいだと思っていて、嘘という概念自体は別に悪いことじゃないと思ってます。嘘という言葉の響きは「悪い」と感じるニュアンスがあると思いますが、絶対にそれで守られている部分が、気づかないけれどあって、気づかないから守られている優しさだと思うんです。ただ、極力本音で生きていきたいとは思いますけどね。
父親役の安田(顕)さんとは羽猫家としての家族の繋がりを感じるお芝居をすることができたんじゃないでしょうか。2人でのシーンはとても好きな時間でした。ある種の緊張感の中で家族としての会話ができたと思います。
佐賀弁は僕の地元の博多弁とはまた違うんですけど、似ている部分もあって、地元の方言に近いものでお芝居できることはありがたかったです。やっぱり楽しいんですよね。もっと博多弁のお仕事をしたいくらいです(笑)
「受け止めてくれる側を考えるように。30歳を前に理想像が少しずつ見えてきました」

僕にとってお芝居はいかに表現できるかでしたけど、最近は受け止めてくれる側を考えて演技するようになりました。映画だと2時間ほど、観てくれる方の時間をもらうわけなので、そこに責任を持つ気持ちが芽生えたんだと思います。2026年に30歳になるので、自分の理想像が少しずつ見えてきた感じです。漠然とした言葉ですけど、良い大人になりたいですね。
この作品は家族に対して優しくなれるということはもちろんありますが、家族だけじゃなく関わったりすれ違う人たちの苦労や時間についても優しくなれる映画だと思います。自分の周囲の人たちを思いやれる、そういう力がある作品じゃないかと思っています。
MAHIRO TAKASUGI
1996年7月4日生まれ。2009年、舞台『エブリ リトル シング’09』で俳優デビュー。12年の映画「カルテット!」では初主演を務める。14年『ぼんとリンちゃん』の演技が高く評価され、17年『散歩する侵略者』で第72回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞。

弟の死が受け入れられない母のため、弟のフリをして母に手紙を書き続ける小学生の山吹。空想の世界に生きる母、愛人の元に逃げる父、夢を語ってばかりの適当な祖父と“噓”を扱い仕事をする祖母、そして“嘘と嘘つきが嫌い”な姉。一つ屋根の下に住んでいながらもバラバラに生きている家族の中で、山吹は今日も嘘をつきながら成長していく―。ある家族の30年にわたる“嘘”と“愛”の物語。
●2026年1月9日(金)より全国ロードショー
原作:「架空の犬と嘘をつく猫」
寺地はるな(中央公論新社刊)
監督:森ガキ侑大 脚本:菅野友恵
出演:高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安田 顕、余 貴美子、柄本 明ほか
配給:ポニーキャニオン
Photo:大内カオリ/ Text:入江奈々/Styling:菊池陽之介/Hair&Make:堤紗也香




