2019年に公開された映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』は、乃木坂46を卒業した堀未央奈が初主演を務め、間宮祥太朗や清水尋也も出演した青春恋愛映画。原作は相原実貴の人気コミックで、山戸結希監督がメガホンを取った。
ヒロインは元乃木坂46・堀未央奈
間宮祥太朗らと繰り広げる「エモい」青春ラブストーリー
毎月のように新作が公開されている青春恋愛映画。本数が多すぎるので、すべてをチェックするのはなかなか難しいが、まだ演技経験は少なくとも、ブレイク必至の若手俳優たちの登竜門となっているため、隠れた注目ジャンルとなっている。
少女漫画雑誌『ベツコミ』で連載されていた相原実貴による人気コミックを原作とした『ホットギミック ガールミーツボーイ』。2019年に公開された本作で、初主演となったのは2021年に乃木坂46を卒業した、当時の2期生エース・堀未央奈。ヒロインの成田初(なりた・はつみ)役を演じている。自分の意志がなく、日々周りに流されているだけの日々をおくる、引っ込み思案な性格の主人公「初」。そんな性格が災いして、夜遊び、デートレイプドラッグ、自撮り、また、弱みを握られ奴隷になれとまで言われるなど……何度も危ない状況に巻き込まれてしまう。そんな彼女をとりまくのは、人気モデルとして華やかな生活をしている幼なじみで初の憧れの存在、小田切梓(おだぎり・あずさ/板垣瑞生)、同じく幼なじみでなにかと嫌味なことを言ってくるドSで秀才の橘亮輝(たちばな・りょうき/清水尋也)、そして危機に陥った初を王子様のように助けてくれる大学生の兄・成田凌(なりた・しのぐ/間宮祥太朗)の3人。
この4人の登場人物が複雑に絡み合うことでサブタイトルにもあるような「ガールミーツボーイ」が展開されていく。 脇を固めるのは、初よりも積極性が強い中学生の妹、成田茜(なりた・あかね)を演じる桜田ひより、梓の父親役に反町隆史、梓のマネージャー役に吉岡里帆が出演している。登場場面は少ないながらも各々が強く印象に残る演技をし、物語を盛り上げていく。中でも初と同級生の幼なじみで心優しい八木すばる(やぎ・すばる/上村海成)に恋をしている茜のサイドストーリーも見どころだ。
「ホットギミック」の舞台設定とテーマ
学生4人のそれぞれの恋愛模様を描いたこの作品。通常この手の映画に欠かせない学校での日常場面はほとんど登場せず、渋谷や豊洲がメインの舞台となる。
では、この映画がメインで描くものは一体何なのか。それは、多感な若者たちが恋をすることで時に燃え上がり、時にギザギザになり、時に甘くとろけていく、そのあまりにも繊細な心の動きや感情なのだ。その感情を変化の激しい渋谷や豊洲の情景とともに切り取って描かれていくため、変化の少ない教室でのシーンは少なくなっているのだ。
感情が大きく動く繊細なその一瞬はまさに「エモい」という言葉がピッタリの青春ラブストーリーになっている。 また、主人公、初はこの恋で感じる感情の機微を通して、「自分」というものを発見し、自覚していく。その瞬間自分がどう感じ、何を大切に思い、どうしていきたいか、そこに向き合うことで自分を認められていく「自己肯定」映画でもある本作。女性が恋愛では男性から「選ばれる」ことが多い中で、本作は「初」が自らの意志で自身の道を「選びとっていく」様が描かれており、女性自身の強さもまた感じ取れる作品となっている。これはまさに女性監督ならではと言える。
監督・脚本は今注目の鬼才・山戸結希
瑞々しい映像表現を武器にアイドル映画で大活躍
少女漫画原作の青春恋愛映画に分類される作品はあまり映画を見慣れていない中高生向けに作られることが多いため、映画マニアの間で話題になることは少ないのだが、この作品は違った。
鬼才・山戸結希(やまと・ゆき)が監督と脚本を務めているからだ。
長編監督デビュー作は、ガールズグループ・東京女子流の主演映画『5つ数えれば君の夢』(2014年)。菅田将暉と小松菜奈が共演した『溺れるナイフ』(2016年)も記憶に新しい。
若者の繊細な心を瑞々しく斬新な映像に落とし込む魅せ方と、独白にも近い美しいセリフ回しで表現することで独自の世界観を作ることに定評のある気鋭の若手女性監督だ。
『ホットギミック ガールミーツボーイ』でもその演出スタイルは遺憾なく発揮されている。
堀未央奈以下のメインキャストは、まるで詩の朗読をしているかのように心の葛藤を互いにぶつけ合っていく。
同じ場所で話しているはずの人物たちを別々の画面で激しく切り替えて映す「切り返し」や、その逆で、画面が一切切り替わることなくひとつのシーンを撮影する「長回し」といった映画の手法を自在に駆使して、独特のリズムを作り出している。 また、一瞬を切り取る印象を与えるため、登場人物の写真を瞬時にいくつも映し出すのも変わった演出だ。ただ、その変わった演出の中にも美しい映像がたくさん散りばめられているので、少しでも気になった方は予告編をチェックしてほしい。
本作における感情の重要性
この映画で重要とされていることそれは、「そこでなにが起こっているか?」のストーリー性よりも「その人がいまどんな気持ちなのか?」の登場人物の感情に重きが置かれている。本作は、感情が連続して映しだされ、その感情が続いていく作品のため先に述べた違和感のある演出が多く見受けられるのだ。
理解ができない場面があったとしても、描かれているのは不条理で予測不可能な思春期のその瞬間の感情で、理解するのは難しいかもしれない。だが、その一瞬一瞬をセリフと映像で描いて魅せる山戸監督の作品を、この映画を通して感じてみてほしい。彼女、彼らがたどり着くまでの過程、それによって主人公が1人の女の子から強い女性となっていく様と彼女が最後に何を選ぶのかどうか見届けてほしい。
音楽における余韻
主題歌はバーチャルシンガー・花譜(カフ)
本作の主題歌「雨が降り止む前に」では、次世代バーチャルシンガーの花譜(カフ)が担当。彼女の類稀なる歌声は本作の儚い恋にぴったり。また、作詞を担当したのは超人気ボカロP・カンザキイオリ。映画の世界観が見事に歌詞に反映されており、この2人の見事な融合された音楽が最後まで、映画鑑賞後の余韻に浸らせてくれる。
「青春恋愛映画」の枠を超えた作品
誰もが抱える社会に縛られる「生き方」へのヒント
ここまで紹介してきた通り、本作は「青春恋愛映画」というジャンルの枠を超えたより広い世界を伝えてくれる作品となっている。恋愛映画の鉄板である、イケメンと美女が恋愛するだけの映画ではなく、その中に現代の日本という社会に内包されている「●●はこうあるべき」という縛られた考え方を打ち破ってくれる、山戸監督的な強いメッセージ性を体感してほしい。社会の窮屈さを感じている人がいたら、もしかしたら本作は何かヒントを与えてくれるかもしれない。自分が鑑賞後何を感じるのか、自分自身でぜひ選び取ってほしい。
<作品情報>
原作:相原実貴「ホットギミック」(小学館「ベツコミ フラワーコミックス」刊)
監督・脚本:山戸結希
出演:堀未央奈 清水尋也 板垣瑞生 / 間宮祥太朗
桜田ひより 上村海成 吉川愛 志摩遼平 黒沢あすか 高橋和也
反町隆史 吉岡里帆
主題歌:花譜「夜が降り止む前に」(KAMITSUBAKI RECORD)
製作:2019年
上映時間:119分