戸田奈津子のスターこのひとこと:『帰らない日曜日』
© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021 All rights reserved.
帰らない日曜日

■2022年5月27日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開!
配給:松竹

【STORY】1924年3月。まるで初夏のように暖かな日曜日。今日はイギリス中のメイドが里帰りを許される“母の日”だ。しかし、ニヴン家に仕える孤児院育ちのジェーンには帰る家がなく…。

『帰らない日曜日』の作品紹介はコチラから

キュッと心を締め付ける…主人公ジェーンの物語『帰らない日曜日』

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 英国は、今も昔も階級社会。大きく分類するとUpper class(上流)、Middle class(中流)、Lower class(下層)ですが、それだけでなくUpper middle class(上流に近い中流)とか、Upper lower class(上流でもかなり下)とか、さらにビミョーな区別があって、外部の私たちには判断が難しいですね。今回の『帰らない日曜日』は、その階級区別が歴然とした1920年代。御曹司ポールとメイドのジェーンの恋が、後に作家になるジェーンの回想で。そういういかにも英国的な物語は、私の好み。その忍従というか、感情を押し殺して耐えるメンタリティは、程度の差こそあれ、日本人と似ていて共感を覚え、理解しやすい気がします。
 ジェーンはポールの一家と親しいUpper classの家族に仕えるメイドですから、気軽に話のできる相手は、同じメイド仲間のミリーだけ。里帰りするミリーを見送りに行ったジェーンは、「汽車に乗れば未来の夫に出会えるかもよ」と言いながら、その容姿をこう定義します。

ジェーン: Tall, dark and handsome.

背が高く、ダークでハンサム。

 昔から欧米で典型的なイケメンといえば、「背が高く、肌(または髪)がダークで、ハンサム」と決まっているのですが、いまはさすがにすたれ気味!? いえ、いえ、“ハリウッドの王子”と称賛されるティモシー・シャラメも、新作公開中の「ファンタスティック・ビースト」シリーズの主役エディ・レッドメインも180cm以上の長身でダークヘア。モテ男の条件は変わらずで、健在なのです。
 さて、原題が意味する<Mothering Sunday(母の日)>は、1年に一度メイドが里帰りを許される日。孤児で帰る家も家族もいないジェーンにも、雇い主Mr.ニヴンは休日をくれます。

Mr.ニヴン:You shall have the whole day to do as you please.

おまえの好きなように使える一日をあげるよ。
=今日一日、好きにしていいよ。

 <as you please>は「あなたの好きなように」で、「as you like」でもOK。たとえば「As nobody is listening, you can sing as you please.(誰も聞いていないから、好きに歌っていいよ。)」。さらに、「自転車で遠出をしようかと思います」と言うジェーンに「本を持っていけと」アドバイスをするMr.ニヴンは重ねて。

Mr.ニヴン:The whole place is at your disposal.

この場所すべてを、おまえの思い通りにしていいんだよ。

 <at your disposal>も「あなたの好きなように」「あなたの勝手に」。同じ意味でも違うフレーズがいろいろあるので、覚えておきましょう。
 ジェーンの“運命の人”ポール役にはドラマ『ザ・クラウン』でチャールズ皇太子を演じたジョシュ・オコナー。じつはコロナ禍で“おうち時間”が増えた頃から、映画一辺倒だった私も配信サービスでドラマを観るようになり、『ザ・クラウン』にはハマりました。というわけで、今作を観ていても、時々ポールがチャールズ皇太子に見えて少々混乱(苦笑)。口をすぼめた表情とか同じなんですもの。その点、同じドラマでエリザベス女王を演じたオリヴィア・コールマンはMr.ニヴンの妻役ですが、女王の片鱗もなし。やはりオスカー女優は役作りがすごい! ちなみに、Mr.ニヴンを演じるコリン・ファースもオスカー俳優にして、「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズで女性人気を獲得したイケメン俳優。身重も180cmオーバーで、いまはシルバーグレイですがかつてはダークヘア。素敵な“イケおじ”になっています。

▽コリン・ファースが無骨で生真面目な弁護士マーク・ダーシを演じて大ブレイク

『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』より

冴えない独身O Lが繰り広げるロマンチック・コメディの続編。レニー・ゼルウィガー演じるブリジットは、弁護士マークと付き合い始めてから幸せの絶頂だが、結婚というゴールにたどり着くのはいつ? マークとけんかをして落ち込んでいるブリジット。そんな彼女の家のインターホンを鳴らしているマークを見て。

Have you come to chuck me? Oh Good, please don’t chuck me.

私を捨てに来たの? 神様! お願いだから、私をポイ捨てしないで。
Point

<chuck>は、「恋人を捨てる」「ポイすること」。アメリカのヤングは「I dumped her.」などと、ダンプカーもどきのスゴイ言い方をしますが、英国では<chuck(やめる、放る)>で、<dump=投げ捨てる>よりは、さすが品が良い!

(情報は記事公開時点の内容です)

あなたにオススメ