配給:パルコ ユニバーサル映画
【STORY】街角にあるクリスマスショップで働くケイトは、浮かない顔でサボってばかり。そんなある日、彼女は店の前で鳥を見上げていたトムと出会う。
このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。
(情報は2020年1月の記事公開時点の内容です)
毎年、年末にはクリスマス映画が何本かは公開されますが、2019年はこの1本で決まり。人気グループ「ワム!」のヒット曲からインスパイアされて綴られた『ラスト・クリスマス』。同名の名曲は私にも耳になじんだメロディ。とはいえ、じつは「ワム!」やジョージ・マイケルが、伝説的に人気があるなんて認識していなかったのですが(苦笑)。
ヒロインはロンドンにあるクリスマスショップの店員ケイト。妖精エルフの衣装に身を包んでいても仕事はサボってばかり。夜ともなれば、バーでナンパしてきた男性や友人の家に泊まり歩いて両親が待つ家には帰らない。最初のうちは“困ったちゃんの騒動記”なのかと、少々とまどいました。でも、やはり脚本担当が、『いつか晴れた日に』(’95年)でアカデミー賞脚色賞を受賞したエマ・トンプソン。風変わりでハンサムな青年トムの出現によって、心温まる物語に展開していきます。そのサプライズ・エンディングはご覧になってのお楽しみですが。
さて、英語的にはみなさんの会話に応用できるフレーズがたくさん出てきます。たとえば、口うるさい母親のいる実家に帰るのを嫌がるケイトに、友人が「それじゃ、実家に帰るのかい?」と言うと。
Kate: Kill me.
私を殺して
<Kill me>は、「私を殺して」=「殺されるほうがマシよ」「耐えられない」で、強く拒絶する意思表示。嫌いなことを強要されたときに使えるパワーマックスのフレーズです。また、出会ったばかりのトムから散歩に誘われてケイトが断るシーン。
Tom : Any reason in particular?
(誘いを断る)特別な理由が?
Kate : Because you’re weird. And I don’t know you.Please just leave, okay?
あなたってキモイから。それにあなたのことを何も知らないのよ。お願いだから消えて。
<weird>は、ずばり「キモイ」。かつては<strange><odd>などが普通でしたが、今の若者は絶対に<weird>。ただし、発音は<ウィヤード>で、スペルも間違いやすいので気をつけて。
もうひとつ、トムの素性を知ろうとするケイトが彼に質問攻め。
Kate : Are you gay? Married? You need space?
あなたゲイなの? 結婚してるの? 独りでいたいの?
<need space>は「空間が必要」ということで「自分が自由に呼吸する空間が欲しい」というニュアンスが含まれ、「独りになりたい」の意味。たとえばしつこくされて困った時に「I need space.」と言えば、「独りにして」「放っておいて」「距離を置かせて」ということに。ちなみに、あちらでは「I need space.」がよく離婚の理由になっています。
今回の3フレーズは、さまざまなシーンによって使い分けのできる便利なフレーズですから覚えておきましょう。
さて、脚本を担当したエマ・トンプソンですが、イギリスが誇る大物女優なのは知っての通り。本作でも、口うるさいケイトの母親を旧ユーゴスラビア訛りの英語を駆使してユーモラスに演じています。私がご本人にお会いしたのは『いつか晴れた日に』が日本で公開された’96年のこと。すでにハリウッドでも大成功を収めたスター女優でありながら、その素顔は気取りのない知的な人柄で好感を抱きました。そうそう、当時大流行していたイッセイミヤケのPLEATS PLEASEを大量に買い込んでいて、私にもブラウスをプレゼントしてくださったのを覚えています。ほとんど四半世紀前のことですが、頂き物エピソードは忘れないものですなぁ(笑)。
▽クリスマス・シーズンに観る定番の一作
『ブリジット・ジョーンズの日記』より
仕事にダイエットに悪戦苦闘しながら恋人探しをするアラサーO Lの奮闘記。主人公ブリジットとダサいバツイチ弁護士の恋が実るクリスマスのシーンは、ロマンチックの極み。彼が愛を告白するセリフが、愉快です。
Apart from the smoking and drinking and the vulgar mother, and the verbal diarrhea,I like you very much…just you are.
タバコ、プカプカ。お酒、ガブガブ。下品なおふくろさん。下痢状態の言葉のたれ流し…は別にして、僕はきみが好きだ。ありのままのきみがね。
<just you are>は「ありのままのきみ」ということ。「Please see me just I am.(ありのままの私を見てね)」というぐあい。恋をしたら是非とも言いたい、言われたいロマンチックなフレーズでしょ。