1998年、当時のJ-POPシーンで大活躍を続けていたそのさなかに亡くなったロックミュージシャン・hide。映画『TELL ME ~hideと見た景色〜』は、誰よりも近くでhideを見ていた実弟・松本裕士(ひろし)と、hideを音楽面で支えた共同プロデューサーI.N.A.が著したノンフィクションをベースにした作品。本作で実在の人物を演じた今井翼、塚本高史に撮影の舞台裏、そして本作を通じて改めて知ることになったhideの存在の大きさについて話を伺った。
hideとの出会い
X JAPANのギタリストとして、ソロアーティスト(hide with Spread Beaver/zilch)として活躍し、日本を代表するロックミュージシャン・hide。彼との出会いは、二人が小学生だった頃までさかのぼる。
今井:僕は小学生の時にX JAPANに出会ってから、hideさんの唯一無二の世界観に魅せられてきました。今回はとても複雑で繊細な役どころでしたが、自分なりに強い意志を持って務めたつもりです。
塚本:僕もhideちゃんとの出会いは小学生の頃。ソロの最初のアルバム(『HIDE YOUR FACE』)に入っている「D I C E」という曲を聴いて、カッコいいなと思いました。音楽もそうですけど、なにより人間として好きでしたね。だから今回のお話をいただいた時は、熱烈な1ファンとしては「当然!」という気持ちがあったというか。俺以外の誰かがこの役をやっていたら、きっと激しく嫉妬していただろうなって。
今井:それもhideさんへの愛があるからこそ、ですよね。今回、hideさんの役を演じたJUONさんに「hideさんはこういう仕草をしていたよ」って感じで細かいアドバイスをしていたし。実際、現場では高史くんの存在がとても大きかったです。
塚本:監督のほうから「わからないことがあったら教えて」と言ってくださったおかげかもしれないですね。自分がずっと好きで見てきたものなので、こうしたらもっと良くなるよっていう部分が見えたのかな。
今井:やっぱり監修として高史くんの名前をきちんと入れるべきですよ。それだけ詳しいんですから。
塚本:好きこそ物のなんとやら、だね(笑)。
実在の人物を演じることへの意気込み
hideの実弟・裕士(ひろし)役には本作が映画初主演となる今井翼。そして断片的な回想シーンのなかで強烈な印象を残すhide役を、FUZZY CONTROLのギター&ヴォーカルとしても活動するJUONが演じている。
今井:昔、hideさんが常連だったっていうバーに行ったことがあるんですよ。カウンターの奥にhideさんの写真があって、内装や照明が赤くて……所縁のあるお店で酔っぱらいながらhideさんの曲を歌ったことはいい想い出です。その時はまさか僕がこのような役をいただくことになるなんて、夢にも思っていなかったですね。好きだからこそ、この作品に出会えたことに感謝しています。映画の撮影が始まる直前に、横須賀にあるhideさんのお墓へ「やらせていただきます」と、ご挨拶にも行きました。
当時からのファンだからこそのこだわり
かねてよりhideのファンを公言し、ファンクラブの会報にコメントを寄せることもあったという塚本は、本作ではI.N.A.役を演じる。
塚本:映画のなかでJUONくんが付けているアクセサリーは、原宿にあった「LEMONeD SHOP」というhideちゃんのショップであの当時に僕が並んで買ったものです。彼のファンは特にファッションやビジュアルに強い人が多いので、映画を観た時に「これは違うよ」って思われたくないのもありますし。もちろん役者としての仕事が第一なのですが、そういう細かい部分に貢献できたという意味でも幸せな時間でした。「きっと、あのころ僕と同じような生活をしていた人たちもこの映画を観るんだろうな……」と思いながら現場に立っていました。
「ROCKET DIVE」を歌うシーンの撮影では、最初に現場で用意された楽器が違ったんです。イエロー・ハートっていう黄色いギターで、これも確かにhideちゃんが使っていたギターなんだけど、これじゃないぞと(笑)。実際にこの曲のPVで弾いているのはジャガー・スタイルの「JG CUSTOM」というギターで、hideちゃんがピックガードの中を改造して、弾くと中に仕込まれた電飾が光る仕様のギターなんです。ギターメーカーのFERNANDESさんの協力で、同じギターを借りることができたのもこの映画のリアルな雰囲気を高めてくれました。ここまで来るとドキュメンタリーを作るのと変わらないというか、当時を再現するための細かい気配りもこの映画の魅力ですね。
現場で作られるそれぞれのコンビネーション
「hide with Spread Beaver」のメンバー役には、音楽監修も兼任している川野直輝ら、ミュージシャンと役者の両方で活躍できる才能が集まった。バンドのシーンは現場でディスカッションをしながら撮影を進めていったというその一方、hideという存在を通じて特別な信頼関係を結んでいく裕士とI.N.A.のシーンではどうだったのだろうか。
塚本:翼くんとはもちろん現場でプライベートな会話をすることはありましたけど、演技についての話は意外となかったんですよね。お互いに”芝居で会話する”というか、セリフを言いながらお互いの感情を感じ合う、そういうキャッチボールができていました。
今井:撮影の最初の頃は「これでいいのかな」といつも悩みながら演じていました。何をやっても壁にぶつかってしまう。そんな裕士さんの想いとリンクする部分もかなりあったと思います。でも、裕士さんだけではできなかった大きなプロジェクトをI.N.A.さんが具体的に動かしてくれたのと同じように、2人だけの場面では高史くんが芝居をリードしてくれました。だから、僕は僕で裕士さんという役を丁寧に描くことに集中できた気がします。芝居を作るというよりは、自分自身が抱えてきた悩みや迷いをつまみ出して演じていたという感じです。
音楽だけではない、hide自身の人間性
本作のクライマックスは、1998年にhide本人不在の中開催された「hide with Spread Beaver TOUR appear!! “1998 TRIBAL Ja,Zoo”」ライブの再現シーン。hide本人のヴォーカルが入った実際のライブ音源を使用し、当時の映像を巧みに交えながら臨場感あふれる仕上がりとなっている。
今井:映画を観終わった時、僕はhideさんをとても近くに感じました。単なるロックスターではない、人間としてのhideさんの魅力が詰まった映画です。彼にはアーティスト「hide」ではなく、兄「松本秀人」としての顔が確かにあって、それを見ることのできた数少ない人間が裕士さんなんだと思っています。この映画を通じて、そんなhideさんの”人としての一面”を伝えていけたらいいですね。ライブのシーンもとても充実しているので、ファンでない方にもhideさんの魂とともに、音楽の力を感じて映画館を後にしてほしいな、と思います。
塚本:hideっていう優しいロックスターがいたんだよってことを、特にリアルタイムを体験していない10代、20代の人にも知ってもらいたいですね。今聞いても、きっと色褪せてない音楽だと思います。いまだに「最近の曲でしょ?」って思える曲ばかりなんですから。この映画のキャッチコピー「hideは俺たちに何を遺したのか?」の通り、音楽はもちろんだけど、きっとそれだけではない何かを感じてもらえると思います。それでこの映画が音楽を始めるきっかけになったりしたら、うれしいな。
主役不在という前代未聞の状況のなかで、彼らは一体どうやってコンサートを成功させたのか? 伝説の一夜となったあの日の熱狂を、ぜひ映画館で追体験してほしい。
TSUBASA IMAI
1981年10月17日生まれ。
1995年より芸能活動を始め、俳優、歌手、タレントとして幅広く活躍中。『彼女が好きなものは』『キネマの神様』(ともに21年)を経て、本作が映画初主演作となる。その他の出演作にはドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』(20年)、Amazon Originalドラマ『星から来たあなた』(22年)など。
TAKASHI TSUKAMOTO
1982年10月27日生まれ。
1997年にデビューし、ドラマ『木更津キャッツアイ』(02年)など多くの話題作に出演。その他の出演作には人気シリーズの劇場版『T H E3名様 ~リモートだけじゃ無理じゃね? ~』(22年)など。hideの生誕50周年ドキュメンタリー『J U N KSTORY』(15年)ではナレーションを務めている。
Photo:塚原孝顕 Text:真鍋新一・エムクラ編集部 【今井翼】Styling:渡邊奈央 Hair&Make:中谷圭子(AVGVST) 【塚本高史】Styling:上井大輔 Hair&Make:YASU
X JAPANのギタリスト、ソロアーティストとして活躍していたロックミュージシャンhide(JUON)が急逝。彼のマネージャーを務める弟・松本裕士(今井翼)は兄の意志を継ぎ、共同プロデューサーI.N.A.(塚本高史)ら仲間たちとともに動き出す。
監督:塚本連平
出演:今井翼、塚本高史ほか
●2022年7月8日(金)全国ロードショー
(情報は公開時点のものです)