戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『すべてが変わった日』
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すべてが変わった日

■8月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画

【STORY】ジョージと妻のマーガレットは、ある日息子を落馬事故で亡くしてしまう。息子の元妻ローナはドニーという若者と再婚。しかし、マーガレットがとある現場を目撃してしまい…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 ダイアン・レイン&ケビン・コスナーが、再共演の『すべてが変わった日』。これまで何度もお目にかかっているふたりの共演作だし、とくにケビンのファンでもある私(笑)としては、興味津々。今回も字幕を担当しつつ、楽しませていただきました。
 物語は、初老の夫婦ジョージとマーガレットが落馬事故で息子を失うところから。3年後、亡くなった息子の元妻ローナは幼い息子を連れて、暴力的な若者ドニーと再婚。さらにはギャングまがいの凶暴一家が住む実家へと、引っ越してしまう。そこで、ジョージとマーガレットは、義理の娘と可愛い孫を取り戻そうと旅に出るという展開。モンタナ州からノースダコタ州へ。序盤は、ゆったりとロードムービーの雰囲気ながら、途中からはスリラーの味わい。なかなかに面白い発想の作品で、字幕を作りながら「え〜っ、こうなるの?」と驚いたりしていました。そんな物語のなかで冒頭から耳に残るフレーズが。気が荒くなっている馬の世話をする息子に、母マーガレットが言うセリフ。

マーガレット:Better keep an eye on him.

あの馬、気をつけて見てなきゃ。

 <keep an eye on>は「〜を見守る」「〜から目を離さない」「〜を監視する」。このフレーズは後半、凶暴一家を牛耳るドニーの母ブランチがマーガレットに言うセリフの中にも。

ブランチ:I had to bring my boy home so I can keep an eye on him.

息子を家に呼び戻したんだよ。目を離さないようにね。

 <keep an eye on>は、よく使われますから、フレーズを丸ごと覚えましょう。
 旅の途中で訪ねた保安官事務所で、知り合いの保安官の退職を知らされたジョージのつぶやきにも注目。

ジョージ:Beat me to it.

先を越されたか。

 <beat>は、「叩く」ですが、他の意味=「負かす」「撃退する」などもあるので要注意。ここでは、「私を負かして先に、it(退職)してしまった」の意味。マイケル・ジャクソンの歌でおなじみ<Beat it>は「消えろ」の意味ですね。
 物語の舞台は1960年代ですが、西部劇の味わいもある本作。カウボーイハットをかぶった初老のケビン・コスナーは、相変わらずカッコいい。元保安官という役柄もあって、かつての『ワイアット・アープ』(’94年)の勇姿も思い出させます。
 彼の初来日は『ボディガード』(’92年)。それから『ワイアット・アープ』、『ウォーターワールド』(’95年)と立て続けにお会いしていましたが、カッコよさは極めつき。なにしろ記者会見には初来日から多くのジャーナリスト、とりわけ女性がわんさか詰めかけ、熱気ムンムン。当のケビンは、質問をする記者の目をじっと見てユーモアを交えながらも誠実なコメント。まさに世界に君臨する素敵なスーパースターだったのですが……。いま思えば、私財を投入した『ウォーターワールド』の失敗や不倫騒動などが原因と言われていますが、あの輝かしい地位をキープできなかったのがイマイチ不思議でなりません。
 ちなみに、ダイアン・レインも『ストリート・オブ・ファイヤー』(’84年)を携えてステージ・パパに連れられて来日した頃から数回お会いしているのですが、『ボンジュール、アン』(’16年)で再会した彼女は、素敵な熟女になっていました。インテリで、謙虚。たぶん、その資質があればこそハリウッドの水に染まらず、スポイルされることもなかったのでしょう。いやはや、“スターでいること”って、大変なことなのですねぇ。

▽伝説の保安官ワイアット・アープの半生を史実に基づいて描いた西部劇

『ワイアット・アープ』より

アープに扮するケビン・コスナーを中心に、ジーン・ハックマン、デニス・クエイドなど渋い脇役が勢揃い。仲間となるバット・マスターソンに「あんたの評判はかなりのもんだぜ。」と言われたアープの答えが。

Reputation is a tricky business.

評判ってやつは曲者でね。
Point

<Reputation>は「評判」、<a tricky business>は「曲者」「一筋縄ではいかないこと」。このセリフは、あえてケビンが加えたもので、いろいろな意味でReputationに悩まされるケビン自身の思いを込めたものだそうです。

(情報は記事公開時点の内容です)

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