高倉健の代表作「網走番外地」シリーズ解説後半/知られざる傑作たち

永遠の名優・高倉健を一躍スターにしたことで有名な人気シリーズ「網走番外地」は全18作品。東映のドル箱シリーズとして1965年公開の第1作から年に2本以上の驚くべきハイペースで作られたため、健さんファンでもシリーズを初めから終わりまですべて観ている人は少ないのではないでしょうか。前半に続き、第11作目『新網走番外地』から最終作『新網走番外地 嵐を呼ぶダンプ仁義』までを解説。すでに最盛期を過ぎて久しかった当時の映画界にあって、なおもパワーを失わずにいた健さんの魅力を振り返っていきます。

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シリーズ再開後の「新網走番外地」へ

第10作『網走番外地 吹雪の決斗』で一旦終了したシリーズでしたが、健さんの活躍を求めて全国の映画館主からシリーズ続行の希望が東映に殺到。スタッフを一新し、約1年の空白期間を経て再スタートを切ったのがシリーズ後期8作品の「新網走番外地」でした。
主人公の名前は「橘真一」から「末広勝治」へと改められたものの、そのキャラクターはこれまでと変わらぬ熱血漢。引き続き健さんが情に厚い男をたくましく演じています。この時期から、他の映画会社に所属していて健さんとの共演が叶わなかったスター俳優たちの出演が徐々にできるようになり、毎回豪華なゲストとして登場するのも大きな見どころです。

シリーズ第11作『新網走番外地』(1968年)

共演:三橋達也、長門裕之、松尾嘉代、金子信雄
終戦直後の闇市を舞台に、利権をめぐって争う2つの組と暗躍する中国人たちとの戦いに末広が巻き込まれる。
監督は娯楽映画を量産して日本映画界を支えた名匠・マキノ雅弘。

シリーズ第12作『新網走番外地 流人岬の血斗』 (1969年)

共演:志村喬、大木実、菅原謙二、岩崎加根子
四国で造船所の仕事に就いた末広だが、工場の乗っ取りを企てる地元の暴力団と戦うことに。
黒澤明監督の作品で常連俳優だった志村喬との心温まるやりとりに泣かされます。

シリーズ第13作『新網走番外地 さいはての流れ者』 (1969年)

共演:星由里子、下沢広之(真田広之)
幼い少年を連れて漁港にやってきた末広は、潰れかけた漁業会社を助けるため、蟹工船に乗り込む。
監督は同じく健さんの人気シリーズ「昭和残侠伝」を手掛けた佐伯清が担当。

シリーズ第14作『新網走番外地 大森林の決斗』(1970年)

共演:星由里子、宍戸錠
刑務所の職業訓練として林業に携わることになった末広が、看守と結託して木材の独占を目論む悪徳企業と戦う。
日活のアクションスター・宍戸錠との対決シーンがみどころです。

シリーズ第15作『新網走番外地 吹雪のはぐれ狼』 (1970年)

共演:岡田真澄、若山富三郎
刑務所に出入りしていた神父と出会った末広が、教会の仕事を手伝いながら不良少年たちと交流する。
同じく東映の看板スター・若山富三郎がシリーズ初参戦を果たしました。

シリーズ第16作『新網走番外地 嵐呼ぶ知床岬』(1971年)

共演:三橋達也、藤田進、野添ひとみ、安藤昇
牧場で競走馬を育てる仕事に就いた末広だが、ダービーの優勝候補の権利をめぐって牧場同士の争いが発生。
そこに、末広に組長を殺された男が復讐にやってきて…。

シリーズ第17作『新網走番外地 吹雪の大脱走』 (1971年)

共演:星由里子、黒沢年雄、田中邦衛、藤田進
末広が網走へ戻ると、一部の囚人と看守が結託し、逆らう囚人たちを徹底的に差別していた。
彼らの陰謀を知った弟分の謎の死をきっかけに、ついに暴動が起こる。

シリーズ第18作『新網走番外地 嵐呼ぶダンプ仁義』 (1972年)

共演:生田悦子、田中邦衛、金子信雄、宍戸錠、丹波哲郎
トラック運転手として働くことになった末広が、ダム建設の利権を独占しようとする建設会社と戦う。
全国から集まった荒くれダンプ運転手たちとのカーチェイスも大迫力。

まとめ

切った張ったのやくざ映画だと思われがちですが、後半となる「新網走番外地」シリーズは出所した主人公がさまざまな職業を体験し、土地の人々とあたたかな交流を深めるヒューマニズムあふれる作品でもあります。
そして、第11作、13作以外の6作品を監督したのは、『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』『あなたへ』と、晩年の健さん主演作を数多く手がけた降旗康男。この名コンビが織りなす唯一無二の呼吸が育まれたのが「新網走番外地」シリーズでした。
また、当時はまだ無名の若手俳優だった小林稔侍も刑務所の看守や囚人、あるいは悪役グループの一員などの役でほとんど毎回出演しています。
前後編の解説記事を通して興味をもった方は、ぜひ「網走番外地」シリーズを一度ご覧になってみてください。

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