小説家・乙一の脚本｜きっと忘れられないひと夏の出会い『サマーゴースト』

小説家・乙一が本名の安達寛高として脚本を手掛け、イラストレーターのloundrawが初監督を務めた短編アニメ映画『サマーゴースト』。都市伝説として語られる幽霊を探すために集まった少年少女たちの、ひと夏の出会いを描いた青春群像劇だ。

『サマーゴースト』あらすじ

生と死が交わる夏の夜、抱えた想いが向かう先は―

とある夏の日、ネットを介して知り合った高校生の友也、あおい、涼たちにはある目的があった。
それは、都市伝説として噂される幽霊「サマーゴースト」を探すこと。
花火をしていると若い女性の姿をした幽霊が現れるという情報をあてに、彼らは目撃情報のあった場所に向かう。
自分の進みたい将来に踏み出せない、友也。
学校で居場所が見つけられない、あおい。
どうしようもなく未来が閉ざされてしまった、涼。
高校生という青春真っ只中を生きる彼らには、「サマーゴースト」に会いたい理由があって…。
生と死が交わる夏の夜に、それぞれが抱えた想いが走り出す。

『サマーゴースト』見どころを紹介

イラストレーター・loundrawが作る繊細で味わい深い世界

本作『サマーゴースト』の監督を務めたのは、小説「君の膵臓をたべたい」「君は月夜に光り輝く」などのイラストレーターとして活躍するloundraw。
これまでにもイラスト制作にとどまらず、アニメーション制作にクリエイターとして参加したり、音楽アート集団としてアーティスト活動も行ったりしてきた彼が、本作で映画初監督に挑戦。
自身が2019年に立ち上げたアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」にて制作された本作は、風景、キャラクターの動き、表情の変化など、彼の繊細なイラストをそのまま動かしたようなアニメーションが魅力のひとつ。
昨今では当たり前のように言われつつある“動きの滑らかなアニメーション”というよりも、味わい深さを感じるようなアニメーションに仕上がっており、だからこそ、loundrawの世界がそのまま楽しめる作品となっているのだ。

制作にあたり、「綺麗な部分だけではなく、今を生きる人のありのままを描きたい」と語ったloundraw。
3人の高校生と1人の幽霊が繰り広げるひと夏の交流を通じて、人が抱える弱い部分とそれを乗り越えようとする勇気を力強く描いている。

約40分の全てに無駄がない脚本の凄さ

『サマーゴースト』の魅力は、loundrawの繊細なイラストをそのまま動かしたようなアニメーションだけにはとどまらない。
約40分の短編アニメーションなので無駄なシーンなど入る余地がなく、すべてに意味がある完成度の高い脚本も素敵なのだ。
鑑賞の際は、会話や表情はもちろん、風景や時間の変化に至るまで、余すところなく注目してみてほしい。
何より、本作で扱っているテーマとしっかりと向き合いながら、それを40分でまとめ上げたのが素晴らしいのだ。

主人公の友也たちが抱えている悩みは、「今の状況に苦しんでいるからこそ、死に触れてみたくなる」というもの。
字面にすると刺激的に思えるかもしれないが、「死に触れたい」までは行かなくても、「今の状況が苦しいから脱したい」と思ったことがある人は多いのではないだろうか？
そう考えると彼らが抱える悩みはある種普遍的な内容で、これまで多くの作品で扱われてきたテーマであるからこそ、いまさら簡単な言葉や行動で解決してしまうのは難しい。
現実と死の世界をつなぐ「サマーゴースト」という存在は、死の世界に触れた少年が「今を生きるということ」を考えるきっかけでもあり、誰もが抱える悩みに本作ならではのアプローチで向き合うためのファクターにもなっている。

今まさに同じような悩みに直面している人、過去に乗り越えたはずなのにその時の思いを忘れかけていた人、とにかく今を生きる人であれば、きっと少しでも刺さるものがある内容となっているはず。
上映時間は約40分と、気軽に手を出しやすい作品かと思うので、ぜひ、彼らのひと夏の出会いと成長を見届けて、loundrawが描きたかった世界を体感してほしい。

イラストレーター・loundrawについて

イラストレーターとして10代のうちに商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、「君の膵臓をたべたい」「君は月夜に光り輝く」など様々な作品の装画を担当。イラストに始まり、アニメ、小説、漫画、作詞など表現は多岐にわたる。声優・下野紘、雨宮天らが参加した卒業制作オリジナルアニメーション「夢が覚めるまで」では、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画・背景と制作のすべてを手がけ、累計500万回再生超のバイラルヒットを果たした。劇場版「名探偵コナン」、劇場アニメ「ジョゼと虎と魚たち」をはじめとするアニメーション作品へのクリエイター参加や音楽アート集団「CHRONICLE」でのアーティスト活動なども行う。2019年1月にアニメーションスタジオ《FLAT STUDIO》を設立。

映画『サマーゴースト』公式サイトより

作品情報